はじめに

・本作は、チームグリグリ様の代表作「コープスパーティーBC」の非公式二次創作小説です。
・本作はフィクションであり、作中で登場する人物・地名等は実在するものとは異なります。
・「コープスパーティー」に関する権利は、全てチームグリグリ様に帰属致します。

本作は「コープスパーティーBC」の本編とは関係無く、ある一人の女生徒の視点で物語を展開するIFのストーリーとなります。
ですので、原作をご存知の方は違う一面からコープスを読む感覚で、ご存知では無い方は全く新規のホラー作品としてこの作品を読んで頂けると嬉しいです。
書き手である主は、全くの素人の上、文才など全く無い分類の人間なので見苦しい・読み辛い場面が多々あるとございますが、広い心で読んで戴ければ幸いと思っております。

本作は勿論、チームグリグリ様とは全くの無関係で作成されていますので、本家様への質問やご連絡はご遠慮下さい。
感想・ダメ出し等あれば主としても相当嬉しいです。

話の更新は、不定期となります。
ですが、なるべく早期に完走できるように努力して行こうと考えてますので、何卒宜しくお願い致します。
なお、ブログの方に先に話を挙げ、こちらの方に同文を読みやすく移し直す手順を採っていますので、更新の方はブログの方をチェックして戴けると幸いと思います。

BLOG→一喜一憂ブログ〜Alternate hope and fear〜

では、これより本編に入ります。皆様、お楽しみ下さい。


Chapter01:悪夢-nightmare-

・・・寒い、夏の筈なのに体の底から込み上げるこの悪寒は何なのか?

得体の知れない悪寒が、ここに居てはいけないと体が心が自分へ警告を出し続けている。

”何故、私はこんな所に居るのだろう?”
寒さで手足を震わせながらも、私はあの時の事をぼんやりと思い返していた・・・。


−8月中旬 H県S町 某高校

お盆が近くなり、暑くて清々しい程の晴天が広がる今日この頃、3年生である私は受験へ向けての補習を受けていた。
しかし、3年の今となっても皆とは違い、私には将来なんか見えていない、補習だってただ"皆がやっているから"といった曖 昧な理屈で参加し、惰性で毎日を過す、これが今の私の日常となっていた。

そんな私には同じように過ごす親友が居る。しかし、
「はぁ・・・。今日も来てないのか亜美・・・。」と、私は溜め息混じりに一人ぼそっと呟いた。
亜美というのは、私と同じような境遇を共有する数少ない親友の一人だ。補習も勉強なんか名目より、彼女達と顔を合わす方が目的ともいえる。

「亜美、先週まで毎日来てたのに・・・。携帯も繋がらないし、どうしたんだろう?」昼休憩でお弁当を友人と囲みながら私は呟いた。
「彼氏でも出来ちゃったんじゃないの〜♪」友人の一人が冗談交じりに話す。
「でも、携帯に出ないのは流石におかしくない?結構マメに連絡するあの子が。」隣に座る友人が話す。
確かにそうだ、いくら何かの事情があってもここまで連絡が着かないのは亜美の性格としては今までに無かった事だ。
「心配しすぎだって♪その内に学校にも来るでしょ〜。もしかしたら、里帰りとかしてたりするんじゃない?もうすぐお盆でしょ?」最初に冗談交じりに話していた友人が言う。
それもそうだ、夏休みだしお盆も近い、里帰りしていて何かの事情で連絡が取れないと考えたら納得がいく。しかし、私は何かそうは思えないような変な違和感を感じていた。
「私、帰りに亜美の家に行ってみる。」違和感は何なのか全く判らないが、私はいてもたってもいれなくなり、夕方に亜美の家を訪れてみることにした。

日が若干と傾き影が長くなってきた午後、下級生達が部活の片付けをしているのを横目に見、私は亜美の家の方角へ歩みを向ける。
亜美の家は、私の家とは真逆の方角だが、よく遊びに行ったり勉強をしたりと何度も訪れていた。
亜美の家に着く時には、空が薄く茜色に染まっている頃だった。
私はインターホンを押す。
・・・、返事は無い。
やはり、旅行か里帰りで留守にしているのだろうか?
再度インターホンを鳴らす。が、やはり反応は無い。
私は諦めて帰ろうとドアに背を向け、数歩進んだ。しかし、その時、
「た・・・すけ・・・・・、・・・・・・けて・・・」微かに聞き覚えのある声、その直後
"カシャァァン!!"
何かが割れる音。
私は再度振り向き、ドアに近づく。
確かに今の声、亜美だった・・・。
「亜美?居るの?」
私はドアを叩き、少し大きな声で亜美を呼んだ。
しかし、反応が無い・・・。
私はおもむろにドアノブを回す。ドアには鍵が掛かっておらず、すんなりとドアは開いた。
私は玄関に入りドアを閉める。
閉塞された空間、得体の知れない淀んだ感覚が体包む・・・。
"なに・・・これ?いつもと全然違う・・・。空気が重い・・・。"
普段に全く感じない空気に私は不安と寒気を感じつつも、
「亜美?居るの?おじさん、おばさん、居ないんですか?」と数回呼ぶ。
私の声は亜美の家に響くも、虚しく声が響くばかりで、何も反応がない。
その時、
"ピシッ・・・"
ガラスにヒビが入るような重い音が反響する。
"誰かいる?それに、音は確かに亜美の部屋の方向から聞えたよ・・ね・・・?"
私は、悪いと思いつつも確かめに亜美の家に上がった。
「すいません、お邪魔します。」
誰も居ない空間に一言だけ言い、亜美の部屋へ向かう。
亜美の部屋は、玄関から伸びる廊下の一番奥の部屋で、玄関から一直線だ。
私は一歩ずつ歩みを進めるが、夏だというのに亜美の部屋に近づくごとに寒気が強くなる。
短い廊下がいつもの倍以上に感じつつも、私は亜美の部屋の前に辿り着く。
"ゴクリ・・・"
まるで全く知らないドアを開くような感覚に襲われつつも私はドアを開く。
「あ、亜美・・・?」
私は亜美の名を呼びつつ部屋を覗くも、そこに期待していた答えは何も無かった。
亜美の部屋の中は、まるで地震が来たかのように荒れていて、本やCD、壁に掛かった写真などが床に散乱している。
それに亜美の姿もなかった。
「何・・・これ・・・。何があったの・・・。」
私は目の前の惨状に動揺していた。
「泥棒なの・・・かな・・・?亜美、大丈夫なの・・・?」
まず、私は泥棒かと思った。でも、荒れているのはこの部屋だけだ、廊下の途中にはリビングもあるが、とても綺麗に整っている。
"ピシッ・・・"
また反響する音。音の方向に目をやると亜美の机の隣にあった鏡。
一部が割れていて、更にかなりヒビが入ってしまっている。
「さっきのも、これだったのかなぁ・・・?」
私はそう呟やき、それと同時に机の上に置かれたノートパソコンに注目した。
"パソコン、スリープになってる・・・"
おそらく、何も操作をしてなくて自動でスリープになったんだろう。
「ゴメン、亜美。」
いくら親友といってもパソコンを覗くのは気が引けるが、私は亜美のパソコンのスイッチを入れ直す。
パソコンの再開画面が表示され、ロック画面が表示される。
しかし、亜美はパスワードを設定していないのか、中央をクリックすると最後に表示されていた状態が画面に広がった。
"冴之木 七星(さえのき なほ)・・・?幸せのサチコさん・・・?"
画面には、冴之木 七星という人のブログで幸せのサチコさんというページが一杯に表示されていた。
なにやら、"みんながいつまでも一緒にいられる"おまじないという様な内容が書かれていた。
"おまじない?占いみたいなものかぁ。う〜ん、手がかりにはならないかなぁ・・・。"
私は再びパソコンをスリープの状態に戻す。
外は少し暗くなり始めていた。しかし、亜美は居ない。
「気のせいだったのかなぁ・・・?やっぱり家族で何処か行っちゃったんだろうか?」
私は若干不満ながら、自分を納得させようと理由を推察させた。
亜美が居ないとなると、私は一刻もこの得体の知れない空気に包まれた部屋から出たかった。
そして、鏡の前を通りドアへ向かおうとした時、
"!?"
一瞬自分が映った鏡を再度見てしまった・・・。
"今の何?私の制服・・・いや、制服じゃなかった。真っ赤なワンピースだったような・・・?"
しかし、再度自分が映った鏡には、紛れも無く今の自分の姿が映っていた。しかし、顔の部分が割れていて、他の部分もヒビが入っており、ある意味異様な感じになっていた・・・。
"気のせいなのかな?いや、気のせいよ!"
気のせいだと、私は自己暗示を掛けるように自分に諭す。
そして、私は亜美の家を後にした。

私が自宅に帰った頃には、ちょうど夕飯時で日も完全に落ちた頃だった。
しかし、私は酷く体の疲れを感じご飯を食べる気がせず、帰るなり直ぐに自分の部屋へ向かった。
「おかえり、ちょうどご飯できてるわよ〜。」お母さんが階段を上る私に対して呼んだが、
「ごめん、ちょっと食欲無いんだ。風邪とかじゃないから心配はしないで!」と、私は返答した。
「ダイエットでもしてるのかしら・・・」と、お母さんがお父さんと弟に話す微かな声を聞きつつ私は部屋に入る。
"亜美・・・。本当に大丈夫なのかなぁ・・・。"
「私は・・・」
私はベッドに横になると、疲れているのか瞬間に意識が薄くなり、眠ってしまった・・・。


意識が完全に消える瞬間、何かが喋った様な気がした・・・。
"あなたも・・・・・"後半はもう聞えなかった。


・・・・・。
"ゴゴゴゴゴゴォォォォォ"
ヒドイ嵐の音。
あれだけ晴れていたのに、寝ている間に嵐が来たのだろうか・・・。
雷と強い雨の音で、寝ていた私はだんだんと頭が覚醒していく。
寝起きで朦朧とする意識の中、重い瞼を開ける。
目に映るのは私の部屋の天井・・・。
では無かった。
明かりが弱く見えにくいが、確かに違う。それに、ベッドでは無く埃っぽい床に寝ている様だった・・・。
「・・・?」
私は状況が理解できず、言葉すら出ない。
数秒経つと、闇に目が順応してくる事で周りの様子が判るようになってきたが、判る程に思考が麻痺する。
目の前に映る様子は学校。しかし、自分の高校では無い。それにボロボロだ。
"教室・・・?机、小さい・・・。小学校?"
何故?とは思いつつも、今の自分の位置を知るために麻痺する頭をフルに活動させ、状況を一つづつ処理していく。
「何、これ・・・。どうなっているのよ・・・。なんで・・・。」
口からは疑問しか発することが出来ない。
私は黒板の前に立っていた。周りを見渡すと、黒板の横の張り紙に目が行った。

---天神小学校廃校のお知らせ---
「天神小学校・・・?」聞いたことも無い学校だ。
私は、その下の文字を読もうと目を落とそうとした時、
元の文字ではないものが浮かび上がってきた。
---天神小学校へヨうこソ---
もうかえれない、たのしいたのし・・・・・・・みんなしぬ(以下は文字が擦れて読めない)
「きゃっ・・・」
私は驚いて後ろに尻餅をついてしまった。
ありえない。だが、今まさに目の前で起こっている事。
体が動かない。震えてしまっている。だが、恐怖こそが現実である事を物語る。
「夢じゃない・・・の?こんなことって・・・。」
思考が止まってしまいそうだった。
悪夢・・・。そうとしか思えなかった・・・。

・・・・・。

わたしはむりょくだった。いつもそうだ。だが、いまとなってはもうどうでもいいことなのかもしれない・・・。

---Chapter02へ続く



ブログの方には、この話のオリジナル版を掲載しております(内容に相違はありません)。
コメントを書き込むことができますので、感想・指摘など御座いましたら、是非書き込んでいってやって下さい。
また、あとがきも書いてありますので、興味のある方は見に来てやって下さい。
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Chapter02:地獄-hell-

・・・暗い、夜だから暗いのは当たり前なのだろうが、ココは心すら染めてしまう闇が満ちている。
相変わらず体は無意識に"この場所は危険"だと警告を発し続けている。
"もう、疲れたよ・・・"
私は身も心も限界だった。絶望が目の前まで迫っているかのようだった。
「ねぇ・・・、」
私は何も無い空間に向けて一人語り始める・・・。

・・・・・。

「夢じゃない・・・の?こんなことって・・・。」
ありえないが、今目の前で実際に起こっている現象
。 込み上げる恐怖が、夢だと逃げ続ける自分を捕らえ、これが現実なのだと無慈悲に宣告する。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
心音がまるでヘッドフォンを大音量にして聴いているかのように体の芯まで響く。
私の頭は巻き起こる現象を処理できず、ただひたすら体を震わせ、尻餅を着いたままだった。
「君も・・・」
誰も居ない空間から突然声が発せられた。
"えっ?"
私は突然の声に驚き、声がした方に顔を向ける。
「きゃっ・・・」
私は短い悲鳴を上げると、尻餅を着いたまま少し後ずさりするが、壁に邪魔をされて上手くいかない。
「驚くのは仕方ないね。僕も最初はそうだった・・・。」
ソレは、そう声を発すると少し私に近づいてきた。
ソレは、蒼い炎と淡い光を放ちながら、誰も居なかった空間に妖美に浮かんでいる。
それはまるで、
"火の玉・・・?"
ソレは、私の近くまで近づいてきた。
私は理解できず、相変わらず震えているだけだったが、ソレへの敵意は何故か湧いてはこなかった。
「君も、サチコさんのおまじないをやってしまってココに来たんだろ?」
ソレが言う。
ソレを近くで見ていると、蒼炎が発する淡い光の中にぼんやりと薄く人の形が見て取れた。
「おなじない・・・?」
私には覚えが無い。しかし、どこかで聞いた言葉だ。
私は様々な情報が絡み合う頭の中を必死で探る。
"そういえば・・・、亜美の部屋で見たパソコンに書いてあったような・・・。"
「あれ?違うの?それともまだ頭の整理がついてないのかい?」
ソレが少しおかしいな、といった口調で言う。
確かに状況は理解出来ない。だが確かに"幸せのサチコさん"というモノをやった覚えは無い。
最後の記憶は、自分の部屋でベッドに横になった所までだ。
「あの・・・、ココは何処なんですか?それに・・・あなたは?」
私は少し勇気を出してソレに語りかけた。
「ココは天神小学校っていう所だ。僕は・・・。」
ソレは口ごもる。
「僕は、ココで死んだ・・・。」
少し苦しそうに言った。
「今は思念だけがこうやって存在しているだけだ。幽霊っていうやつかな。」
今度は少し気楽に言う。
「天神小学校?」
私はソレから出た"死"という言葉に驚きつつも、再び質問した。
「ココさ。今いるこの校舎は天神小学校っていう場所。僕もよくは判らないが、ココは僕たちが生きていた世界の次元とは違う所にあるようだね。」
ソレは言う。
「どうやったらココから出られるの?」
私は一番端的で切望する質問をした。
「・・・・・。」
ソレは暫く黙り込む。
「悪いけど、判らない。それが有るなら僕が知りたかった・・・。生きてる間にもココを出る方法を友達と探した・・・。だけど、友達も居なくなって・・・、そして僕も・・・僕も・・・」
悲しそうな声でソレは話す。
「僕も・・・、ウ、ググググ・・・ガググッ・・・」
突然苦しそうにソレは私から少し遠ざかる。
「渇ク、かワくんだヨ、ココデ死んダラ、ソノ時の苦シミが永遠トツヅクんダ・・・」
今までの口調とは全く違う荒々しい口調でソレは叫ぶ。
「気をつけろ・・・、紅く光る魂と・・・、校内を徘徊している怨霊に・・・。僕はもうダメだが、君は負けないでくれ・・・、君は僕たちとは少し違う・・・。コノ学校の意思にマケナいデクれ・・・。」
ソレはそう言うと炎を吹き消したように、フッと目の前から消えた。
再び教室に闇が戻る。耳からも強雨と雷の音しか聞えない。
私は荒い呼吸を必死で戻そうと意識し、同時に、消えたアノ霊が言った事を無理やりにでも整理しようとしていた。
"出る方法が判らない"
それは、頭の中で勝手に"出られない"と変換され、その言葉が私に大きく影を落とす。
"信じられないけど、ココは天神小学校で、私は閉じ込められてしまっているってこと?"
考えたくないが、それが一番妥当な答えに私は思えた。
"紅い魂?怨力?学校の意思?一体何の事なのだろうか?"
「判らない、判らないけど・・・、ココから何とかして出る方法を見つけないと・・・」
そう呟くと、私は震えて笑う足を必死に落ち着かせて立ち上がった。
はっきり言って、その方法も全く判らない。有るのか無いのかさえも。
けれど私は臆病でも生きたかった。
死を間近で認識させられ、強く感じる"生"への願望。
そして、こんな地獄からの脱出を私は願った。

・・・・・。

なにもわかっていなかった、いきるのがこんなにつらいなんて・・・。

---Chapter03へ続く


ブログの方には、この話のオリジナル版を掲載しております(内容に相違はありません)。
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Chapter03:恐怖-fear-

・・・いくら聴覚を研ぎ澄ませてもココは静寂が支配している。
校舎の外は激しい雷雨が絶え間なく続いている筈なのだが、ココは異界のように無音の空間が広がる。
聴こえてくる音は、自分の吐息と激しい心音。それが、まだ自分が生きているという実感を与える。
しかし・・・、そんな事は・・・もう私にとっては、どうでも良かった。

・・・・・。

強く感じる"生"への願望。私は震えて笑う足に全身の力を込めて立ち上がる。
"とにかく、落ち着かなくちゃ・・・"
落ち着ける訳でもないが私は少し埃の付いた制服のスカートを手で掃いつつ、必死で心を落ち着かせようとしていた。

それから10分位だろうか私は教室を一通り調べた。
窓は鍵を外しても全く開かない。近くにある椅子で窓を割ろうとも試みたが窓はまるで鉄のように硬く、傷一つも付ける事も叶わなかった。
私の力が弱いなんて理由なんかでは無い。その事だけでココが普通では無いことが改めて身に染みる。
窓の外は漆黒の闇が広がり、雷が起る度に不気味なまでの木々が浮かび上がる。
窓から見える範囲では、木々は鬱蒼と茂り校舎の周りを囲むように生えているように見える。

"窓からは出られない、どこか外に出られる所を探さなくちゃ・・・。きっとあるはず・・・。"
この空間から一刻も早くに出たい、そう願望ともとれる事を思った。
「この教室に居ても何も判らない・・・。」
私は教室の扉を視野に入れ、歩みを進める。

--ガラリ・・・
木製で所々得体の知れない染みが付いた扉に手を掛け、開ける。
私は開けられた扉から半身を出し周囲を確認すると、視界には仄暗い廊下だけが目に入る。
慎重に確認をした後、私は廊下に出る。
扉の上に目をやると"1のB"と表記されている。
私が目線を廊下に戻した時、
「クスクス・・・キャハハ・・・・」
"!?"女の子と思われる笑い声が背後から聞こえ、私は条件反射の様に即座にさっきまで居た教室を振り返る。
しかし、そこには誰も居ない・・・。いや、元から居るはずも無い・・・。
"今のは・・・?でも誰か居たような・・・。"
居るはずも無い、だが確かに"何か"が居た気がした。気のせいでは無しに・・・。
私は見えない何かに恐怖で肝を冷しつつも、
"しっかり、しっかりしないと・・・"
と、自分に言い聞かせて正気を保つ。
私は、再び目線を廊下に戻す。
仄暗い廊下の奥、曲がり角が微かに確認できるが、赤い布の端のような何かが不確かながら一瞬見えた様な気がした。
"今の声、聞き覚えがあるような・・・"
私は冷静になると今の声が記憶にあることに気づく。
一体どこで聞いたのか?声の記憶なんて不確かで曖昧なのだが、確かに覚えがあった。
しかしそれ以上は思い出せない。

私は全身の神経を周囲の注意に向け、恐る恐ると廊下を歩き進める。暗い上に木製の廊下は所々床が破壊されていて、大きな穴は足を滑らせてしまうと下の階に落ちてしまいそうだ。
辛うじて下の階の床らしきものが見える穴は、得体の知れない存在感があり、まるで体を吸い込まれてしまうかの様に口を開けている。

少し歩くと、先程微かに見えていた曲がり角と闇に溶ける様な階段がはっきりと見える。
私は若干大きめの軌道で曲がり角を曲がる。
"・・・?あそこに何か・・・"
曲がり角の先には廊下と教室の扉が続いていたが、はっきりとは見えないながらも少し先の壁際に"何か"を見つける。
嫌な胸騒ぎがする・・・。しかし、確かめずには要られない。
私は重い足を一歩ずつ動かし"何か"へ近づく。
「嫌あぁぁぁぁぁぁ!!」
校舎内に私の悲鳴が迸る。
私は"何か"とは反対側の壁に背中を強打する位の勢いで飛び退く。
悲鳴をあげた理由・・・。それは私が"何か"をはっきりと見たからだ。
"何か"は、壁際にもたれ掛かるように座った姿で存在し、こうべを垂れた女の子だった・・・。
しかし、もはや人間とは言えない・・・。
垂れた頭は直に骨が見える状態の上、まるで何かに殴られたように大きくへこみ、体の肉は腐り、腐ったものであろう汁と血が辛うじて性別が判る見たことが無い学校の制服を黒く染めていた。周囲は異様とも言える位の腐臭が立ち込めている。
紛れも無く、生きていた人間の死体だ・・・。
「嫌、もう嫌ぁ・・・」
私は衝撃的すぎる有様を見て息の仕方すら忘れている。
単純に人間の死体を目の当たりにしてしまった事と、死んでしまっても誰かの手で弔っても貰えずに朽ちるだけの現状が恐怖と哀しみを感じた・・・。
"僕はココで死んだ。出られず、友達も居なくなって・・・。そしてココで死ぬと死んだときの痛みと苦しみが永遠に繰り返す。"
私の脳裏には"彼"の言葉が思い出され、もしも私がココで死んだら・・・と、考えたくも無いビジョンが浮かんでしまう。
「きゃっ・・・」
今度は短い悲鳴を上げる。
目線は"彼女"の斜め上にある異様な校内新聞があった。

---天神小学校新聞---
もうかえれません。
しんじるひとなんていません。
しあわせなんてありません。
きょうふをかんじてしになさい。

まるで鮮血で書いたかのような赤で無造作に書いてある文字。
どうみてもあらかじめに書いてある文字ではない、多少文字の後ろに読めないが黒い文字らしきものが見える。
私は何も出来ずに立ちすくむ・・・。
その時、足元に可愛いメモ帳が落ちていた。おそらくは"彼女"のモノだろう。
他人のモノを見るなんて趣味では無いが、何故か不思議な魅力があり無性に"ソレ"を読みたくなり私は手を伸ばす・・・。
「それを読んではダメだ・・・」
急に掛けられた声に私は驚き、手にしたメモ帳を手から落とした。
振り返ると空間に蒼炎が浮かび、青く淡い光を発している。
「あなたは・・・さっきの?」
私は"彼"に尋ねる。
「ああ、さっきはすまない取り乱して。あまり・・・死んだ時の事は、こうなっても考えたくないんだ・・・」
"彼"が苦そうに答える。
「君は"ソレ"を読んではいけないよ。おそらく"ソレ"には、そこの"彼女"の想いが書いてあると思う・・・」
"彼"はそう言う。
何故読んではいけないのだろう?私は少し戸惑う。
「ココでは想いは危険だ。未練、絶望、恨み、読んでしまうと君の心はこの学校に食われてしまうよ・・・僕も同じようなものを読んで精神がおかしくなってしまった人を見たことがある・・・」
"彼"は丁寧に、後半は辛そうに説明をしてくれた。
読んでいたら私はどうなってしまっていたのだろうか・・・?

私は心の中で"彼女"に小さく黙祷をして階段へ向かう。
「気をつけて・・・下の階には"彼ら"の気配がする・・・」
私は"彼ら"が何を意味するのかは判らなかったが、忠告を素直に留めておく。
"!!・・・"
階段の途中、このような昔の校舎に不釣合いな人形が落ちていた。
「これって・・・、亜美のストラップ!!」
間違いない。少し大きめでいつも携帯に付けていた人形、大事にしていて解れた箇所は亜美自身が裁縫で直していた。覚えている直しの箇所も一緒だ・・・。
「まさか!?亜美もこの校舎に・・・」
私は戸惑う。
一瞬亜美の存在が確認できるものが見つかり安堵するも、即座にこのような地獄に亜美が居るかもしれないという状況に酷い不安と焦燥を感じる。
この時、私の全身には意味知れぬ恐怖が駆け巡っていた・・・。

・・・・・。

ひとにぎりのしあわせ、それすらもわたしのてからこぼれおちる・・・。

---Chapter04へ続く


ブログの方には、この話のオリジナル版を掲載しております(内容に相違はありません)。
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また、あとがきも書いてありますので、興味のある方は見に来てやって下さい。
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☆Chapter03:Wrong Endシナリオ

---もしもあの時にこうしていたら・・・。
願い思えど戻らぬ時間・・・。
これは、もしもあの時こうしていれば・・・、そのような「たら」「れば」の話・・・。

・・・・・。

---私は何も出来ずに立ちすくむ・・・。
その時、足元に可愛いメモ帳が落ちていた。おそらくは"彼女"のモノだろう。
他人のモノを見るなんて趣味では無いが、何故か不思議な魅力があり無性に"ソレ"を読みたくなり私は手を伸ばす・・・。

メモ帳は、可愛くビーズで丁寧に飾り付けをしてある。
"ソレ"の最初のページをめくる。
その時の私はもう何も考えられないようになっていた・・・。

---犠牲者の手記 1ページ目---
7月20日
今日は皆と一緒にお買い物♪
明日から夏休みで、親友と久しぶりにハメを外すように買い物をした。
明日も遊ぼうと約束して今日は別れた。

7月21日
今日は朝練が終った後、教室へ向かった。
私が教室に着いた時には、もう皆居て話が弾んでいた。
どうやら、今は"おまじない"の話をしていたようで、"友達と仲良く、永遠に親友でいられる"効果があるらしい。
女の子はおまじないや占いは大好きだ。
私たちはこの"おまじない"を教えてもらった通りに親友4人とやった・・・。

あれがいけなかったんだ・・・。

---犠牲者の手記 2ページ目--- 7月21日?
私は得体の知れない学校にいる・・・。
皆はどこ?帰りたいよぉ・・・。

7月22日?
どうなっているの?
全く朝が来ない・・・。
携帯は全く繋がらないし、時計は真昼の時間を示している。
おなかすいた、のどかわいた・・・。

---犠牲者の手記 3ページ目---
7月23日?
もう嫌だ。死体があちこちにある。
気が狂ってしまいそう・・・。

7月24日?
教室らしき所で少し寝た。
寝たくもなかったが限界だった。
私は数時間か寝たが、突然地震が起こって目が覚めた。
廊下に出ると何か雰囲気が違う・・・。
私は校内を少し探索をはじめた。
すると、昇降口近くで友人をみつけた!!
私たちは嬉しさで我を忘れて抱き合った。

神様ありがとう。

---犠牲者の手記 4ページ目---
携帯の電池が切れてしまい、もう日にちが判らない。
私たちはお互いにパートナーが出来たことで微かに希望があった。
一人では無理でも二人でなら大丈夫。
他の二人も何処かに居るはずだ、探さないと!!

おそらく翌日。
校内を二人で探索した。
その時、何か得体の知れない"黒いモノ"が私たちの前に現れて追っかけてくる・・・。
私たちは必死で逃げた。
しかし、逃げても逃げてもどこからか現れて襲ってくる・・・。
もういやだよ・・・。

---犠牲者の手記 5ページ目---
黒いモノから逃げ続けて時間が判らない。
逃げる途中、"あいつ"はわざとともいえる感じで私をこかした・・・。
私は辛うじて起き上がり、難を逃れた。
どういうこと?と"あいつ"に詰め寄っても、わざとじゃないとの一点張り。

さいご・・・。
今日は黒いモノではなく、大男に見つかり襲われた。
隣で走っていた"あいつ"が床に転がっていた死体に蹴躓いてこけた。
"あいつ"は悲鳴を上げながら、そのまま大男に捕まり持っていた槌で殴られていた。
振り下ろされた槌は"あいつ"の頭部にあっけなくめり込んだ・・・。
めり込んだ瞬間"あいつ"の体はビクンと面白い様に跳ねて動かなくなった。
可愛かった顔は得体の知れないモノや血を垂らして見る影もない哀れな有様だった。
フフッ、イイキミダ・・・。
---以下は血が固まっていてページをめくれない---

・・・・・。

メモを読み終わると私の息は激しく荒れていた、まるで全力で走ったような。
そして、目先の少し奥には女の子が哀れな姿で絶命している。
驚き、私は後ずさりをしたが背中が即座に壁のようなモノにあたる・・・。
恐る恐る見ると・・・、槌を振りかぶった大男・・・。
男を目視した瞬間、私の目の前は真っ暗になった・・・。
ブチュ・・・、バキッ・・・。
最後の瞬間に聞こえたのは気味の悪い音。
私はそのまま壁に叩きつけられ、そのまま滑り落ちて壁にもたれ掛かる様に座った体勢で絶命した・・・。

---Chapter03:Wrong End


上記は、Wrong Endシナリオです。簡単に言うとBad Endシナリオといった所でしょうか。
出来たら、本作品のChapter03:恐怖-fear-を一度見てから読んでいただけると幸いです。
なお、こちらもChapter03のブログ記事に一緒にオリジナル版(内容に変更はありません)とあとがきを載せていますので、こちらの感想やコメントもそちらに書いて頂けると嬉しいです。
Chapter03の記事はコチラより→http://sirobi.blog76.fc2.com/blog-entry-127.html



Chapter04:絶望-despair-

・・・視線を感じる。
誰も居ない筈の部屋の中、確かに感じる視線・・・。
まるで私の心を見透かし、隙あらば私の心を砕こうとしているような悪意ある黒く重い視線・・・。
しかし、私はもうそんなモノに恐怖すら感じ無い。
全てがどうでも良かった。
私の心は、どす黒く闇に溶けて染まる・・・。

・・・・・。

「何で・・・?何でこんな所に亜美のがあるの・・・?」
私は、手に握っている間違いなく亜美のモノであろうと思われるストラップの人形を見つめながら戸惑っていた。
「何か君が知っているモノみたいだね・・・。」
私の背後、階段の三段上から"彼"が私に話してくる。
「うん、これは亜美っていう友達の携帯ストラップ。間違えない・・・、直している所とか同じだもの・・・。でも、何で・・・ココに落ちているの?」
私は焦りながら言った。
「・・・・・。 "ココ"にあるって事は事実は一つ、その人も"ココ"に居るって事になる・・・。」
配慮をしつつも冷静で冷徹な口調で"彼"は言い放つ。
(!?)
聞きたく無かった言葉。しかし、同時に見知っている人間の存在に心の隅で安堵している自分も居る・・・。
(駄目だ!こんな気持ちは間違ってる・・・。)
「ねぇ、それは本当なの?亜美はココの何処に・・・?」
私は自然に湧いてきた気持ちを否定し、"彼"に縋るように質問する。
「・・・・・。 悪いけども他人の心配なんかしている時間なんて無いと思うよ。」
"彼"は再び冷徹に言い放つ。
「でも、放っておけないよ。大事な友達なんだから・・・。お願い、何か知っているなら教えて。」
凛としているようで心の中は酷く焦り居ても立ってもいられない。
「・・・・・。」
「ねぇ!!」
黙る"彼"に少し声を荒らげて迫る。
「・・・判った。理屈は理解はしなくてイイ・・・、感覚で聴いていてくれ。」
"彼"は根負けしたように言い、淡々と話しを進める。
「まず事実から話す、君が持っているソレの元の持ち主は"ココ"に居るが"ココ"には居ない。」
まるで矛盾している話だ。
「どういう事・・・なの?」
・・・私の質問を聞く耳もなく"彼"は続ける。
「僕も詳しくは判らないが、この天神小学校は僕達が元に居た次元とは異なる異次元といえばいいんだろうか、出口は無く並行した次元にいくつもの同じ校舎が重なって存在する。つまりは、多重閉鎖空間という事らしい。」
(多重閉鎖空間?)
もう何を話しているのか理解は出来ない、私は"彼"が最初に言った様に感覚で聴く。
「次元は干渉し合っている。いつ別次元の校舎に移動していてもおかしく無い。"ココ"居るが"ココ"に居ないっていうのは、そういう事なのさ。どこかのこの校舎には居るけど、少なくともこの校舎には居ない・・・。」
内容は到底理解は出来ていない。だがこの異常な場所では、そんな異常な理屈もまかり通ってしまう、そう感じた。
「それにココは時間軸も到底普通では無い。その人形も、そこに落としたのは数時間前かもしれないし、もしかしたら何日も先の未来かもしれない。持ち主も、もしかしたら君の隣に居るかもしれない。でも会えない。・・・ここからは僕の推論だが、会うには全く同じ次元の時間軸に居ないといけないのだと思う。だけど、そんな事は無理だ、いつに変わるか判らない空間の上、時間軸が合うなんて確実に確率は0だ・・・。」
話が正しいとすれば、確かに奇跡以上の確率が必要となる。
「僕が知っているのはここまでだ・・・。僕が感じれる範囲では数人"ココ"では無い所でまだ生きている君のような人達がいるようだ。ついさっきに一つ感覚が消えたけどね・・・。」
消えた・・・。それはさっきの惨状を目の当たりにしたら考えるのは一つ。私はそれが亜美で無いことを必死で祈る。
「この天神小学校は何か大きな存在があるように思う、それに"彼ら"・・・、何処にでも居る、複数居るのか、それとも次元を移動出来るのか・・・。」
大きな存在、私も嫌にでも感じるこの不快感も関係しているのだろうか・・・?
「それでも、亜美は放っておけないよ・・・。」
私はそう呟く。
「だから、それは・・・・・」
(!?)
"ゴゴゴゴゴ・・・"
突然足元から突き上げる地響きと共に激しい揺れが襲う。
「じ、地震・・・!?」
私は激しい揺れに体制を保てず体を壁に預ける。
「クッ、ココもまた干渉が始まったか・・・。ゴメンネ、僕はここまでみたいだ・・・。気をつけるんだ、"彼ら"に・・・、"彼ら"の持っている怨念は危険だ!」
("彼ら"?)
私は激しい揺れで動けない。
「僕はもう駄目だけど、君は生きてくれ・・・、生きていて欲しい・・・。」
"・・・サ・・・さんには・・・"
「ま、待って!」
最後の言葉は私には微かすぎて聞き取ることが出来なかったが、全てを言い終わる前に"彼"は蝋燭を吹き消すかの様にフッと消えてしまい、その直後に続いていた揺れは止まった。

揺れが収り、身を壁から離し辺りを警戒するも、校舎内は再び降りしきる豪雨と雷鳴だけが響く。
"彼"が居ない・・・。
霊体・・・、そんな得体のしれない存在ではあるが居ないというだけで潰されてしまう位の不安感が私を襲う。
そんな不安を祓うかの様に、私は手に握っていた人形を見つめ、無理にでも自分を奮起させた。
「亜美・・・。」
制服の胸ポケットに人形を大切に入れ、辺りの様子を確かめる為に一度降りてきた階段を再び昇る。

(あれ・・・?)
先程の廊下に戻ったが、その様相は大きく異なっている。
さっきまであった筈の女子の死体が無くなっている・・・。
死体があった場所にも痕跡すら残っていない。
そして、私が最初に居た教室への廊下は全ての床が10m程抜けている。向こう側にはどうやっても戻れそうには無かった。
(さっきとは同じだけど別の校舎に居る?)
"彼"が話していた到底信じることが出来ない話が実際に自分の目の前で起こり、否が応でも理解させられる。

大きく抜けているからか、下の階の廊下が不鮮明ながら確認することが出来る。
その時、私の目には何かが確かに動くのが見えた。
私は確かめようと、足を滑らせないようにヒザをついて下の階へ目を凝らす・・・。
何かは奥から少しずつこちら側に向かって動いてきていて、近づいて来るにしたがって何かは徐々に鮮明に見えてくる。
(!? 人だ! 間違いない!)
私はココに来て初めて動いている人を見つる事が出来て安堵する。
「ねぇ・・・・・」
私は誰かも判らないその人に上からではあるが声を掛けようとしたが、言葉が口から出る前にその言葉を飲み込み、声を自ら殺す。
それと同時に体を若干引き、姿勢を低くして隠れるような体勢を作った。

(人じゃ・・・無い・・・?)
私の目線の先には小学生らしき年齢の女の子が映っている。
ただ、普通と違うのは体が少し透けている事と、可愛い顔には左目が存在せず、涙のように左目からは黒い血が頬を伝っている事・・・。
女の子は言葉に出来ない程の畏怖を放っており、体は無意識に恐怖し震えが止まらない・・・。
更に、私は目線を逸らしたくても魅了されたように女の子を視野から外すことが出来ないでいた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
激しくなっていく鼓動と短く早くなる吐息を必死に殺す。
(気づかれるとマズい)
頭では無く本能が全身に警告している。

女の子は私に気づいていないのか、手前へ進んでいって私の視界から消えていった。
視界から女の子が消えた瞬間、私の全身の筋肉は弛緩し体の自由が回復する。
「何なの、今の・・・。」
少し思い返すだけで腕が震え始めてしまう。
人間の姿をしていたが、明らかに人間なんかでは無い・・・。
全く違う・・・、そう、何か強い殺意のような・・・。

私は立ち上がり踵を返す。
"ドクン・・・"
心音が突然大きく跳ねた。
「ヴぅぅぅぅ・・・、おねえぢゃん・・・」
私のすぐ後ろに、さっき下に居た筈の女の子が立っている・・・。
可愛い容姿、しかし見開かれた生気を失っている右目は私を捉え、説明が出来ない力で身を拘束する。
"う、動けない"
「がえじて・・・」
女の子は金縛りに遭ったように動けずにいる私に近づき、右手を私の左目を目掛けて伸ばしてきていた。
高校生の私に対して、女の子のその身では普通には届かない、故に私と女の子との距離は0に近い。
迫る"彼女"の顔・・・、私は白濁した生気の無い右目に恐怖を、黒く血を流し続ける失われた漆黒の左目に絶望をその身に刻まれていた・・・。

・・・・・。

どうすれば・・・、いまのわたしはおもうことすらおこがましくて・・・。

---Chapter05へ続く


ブログの方には、この話のオリジナル版を掲載しております(内容に相違はありません)。
コメントを書き込むことができますので、感想・指摘など御座いましたら、是非書き込んでいってやって下さい。
また、あとがきも書いてありますので、興味のある方は見に来てやって下さい。
Chapter04の記事はコチラより→http://sirobi.blog76.fc2.com/blog-entry-146.html




Chapter05:逃避-escape-

・・・重い、体が感じる重力は普段と変わらない筈だ。
だが私の体に上から覆いかぶさる様な重力は指さえも動かすことが出来ないほど重たくのしかかる。
体では無い、心が感じているのかもしれない。
しかし、その心さえも何を考えているのか、それさえも定かではない・・・。

・・・・・。

体の身動きが取れない。
私の体とほぼ密着した状態で目の前には女の子が居る。
女の子は可愛い容姿をしていた、おそらくは小学生位だろうか。
しかし彼女の見開かれた左目には有るべき箇所に目玉が存在せず、失われていた。
左目からは黒く血が涙のように流れ続けている、瞳孔が開いて白濁している右目は生気を感じ取ることが出来ない。
その目と目があってしまった私は説明が出来ない力で身を拘束され、恐怖と絶望を身に刻まれていた・・・。

「がえじて・・・」
酷くかすれて低い声を発し、彼女は動けなくなっている私に対して左目を目掛けて右手を伸ばす。
彼女と彼女の手は明らかな敵意と殺意を宿している。
その時の私は、迫ってくる手のひらの一連の動きがまるでスローモーションの様に感じ取っていた。
しかし、徐々に大きくなってくる彼女の小さな手のひらを、私は為す術も無く見ているしか出来なかった。

"私、もうダメなのかな・・・。"
彼女の手が私の左目を覆い、左の視野の殆どが黒く染まってしまった瞬間、
"ごめんなさい・・・、お母さん、お父さん・・・、亜美・・・。"
間近に迫る確かな"死"に私の心は絶望に全てを支配されていた。

「ヴァァァ・・・」
彼女の手と指に力が入る・・・。
私は全てを諦めてしまい、意識も何処か遠くの方へ飛んで行ってしまった様な感覚に陥る。
その時・・・、
「しっかりして!!・・・・・」
急に掛けられた声に私の意識は引き戻され、同時に全身を拘束が解ける。
突然に解き放たれた体に戸惑うも、私は体を大きく横に退く。
間一髪・・・。
彼女の手は私の顔の至近距離の空を勢い良く裂いた。
少しかすった頬は薄く切れていたが、その時は気に留める余裕も無い。
「逃げて!!・・・」
次いで声が掛かった。
一撃を空振りした彼女の顔がこっちに向きかかる。
(また目を合わせると危険だ・・・)
そう危険を感じたが、声でも理屈でも無く本能的に体は逃げる体勢に移行していた。
次の刹那、私は全力で階段へ駆け出した。
もつれそうになる足を必死で前へ前へと繰り出す。

私は勢い良く階段を駆け下りる。
階段を降りると長い廊下が伸びている。
何があるか判らない、だが今はそんな事を気にしている余裕も無く、私は無我夢中で廊下を駆けていく。
走っている最中に何度か後ろをチラッと向くと、後ろを彼女は追いかけてきていた。
歩幅の差もあって彼女との距離は徐々に離れてきてはいるものの、"死"が追ってきている、そのような重い重圧を放っていた。

廊下の途中、いくつもの惨たらしい死体が転々と転がっている。
首から上が無いもの、バラバラのもの、腐敗が酷いもの・・・。
嫌でも視界に入ってきて、不安と焦りを増長させていく。
それらは心なしか体・足取りを重く絡めていくも、どうにか振り解きながら進む。

廊下を走っていると先で三方向に廊下が別れていた。
曲がるかどうか一瞬躊躇ったが、曲がった先はどのような状態になっているか判らないため危険と判断し、 唯一視界が開けている正面をそのまま進む事にした・・・。
交差した廊下を真っ直ぐに進み、床が欠落して少し細い足場も一気に駆け抜けていった。
相変わらずに後ろには彼女が追いかけてきているのが判る・・・。
廊下の終点には扉があった。しかし、もしもこの扉が閉め切られていたら・・・。
最悪のビジョンが脳裏を過ぎる。
その時、何故か扉が独りでに開いていった・・・。
まるで待っていたかのように・・・。
だが、考える余地も無く、私は開いた扉をくぐり抜けた。

酷い雷鳴が丁度鳴り響き、強い雨音もより激しく聞えた。
扉の先は外だった・・・。
いや、正確にはココも廊下、どうやら別の校舎を繋ぐ渡り廊下のようだ。
"この柵を越えて校舎の外に出られれば・・・"
私は淡い期待を抱いたが、渡り廊下脇の柵は乗越えなければならなく、追われている今は間に合いそうに無かった。
と、すれば選択肢は一つ、向かいの校舎に入るしかない。
私は渡り廊下を駆け抜けて別館の扉に手をかける。
"カチャッ・・・"
どうやら入れるようだ、閉まっていなくて良かったと一先ず安堵する。
私は激しく荒ぶる呼吸と酷い焦りを抱きつつも、扉を開けて別館へと逃げ込んだ・・・。

・・・・・。

そんざいすらひていされる・・・。

---Chapter06へ続く


ブログの方には、この話のオリジナル版を掲載しております(内容に相違はありません)。
コメントを書き込むことができますので、感想・指摘など御座いましたら、是非書き込んでいってやって下さい。
また、あとがきも書いてありますので、興味のある方は見に来てやって下さい。
Chapter05の記事はコチラより→http://sirobi.blog76.fc2.com/blog-entry-157.html



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